工芸ニューウェーブ

一つは木のベンチに座って、太陽の光を受けている鉢である。底面は狭く、上部の縁は流動的に凹凸があり、その間には深海の青色がシャープに並んでいる。その漆の表面は、ほとんど感知できないほどの波紋で微妙に屈折している。

 

Photo by Nik van der Giesen

 

もう一つは長方形のガラスで、暗い隅で照らされている。有機的な形の泡のある透明なガラスの中には、焼成によって白い灰に変化した繊細なフォルムの植物や花が整然と並んでおり、花びらから根に至るまで、時間の中で凍りついている。

 

Photo by Nik van der Giesen

 

これらの作品は、日本の典型的な工芸とは思えないかもしれない。通常は「伝統」と前に付けられ、何世紀も前から伝わる技法を惹起してきた言葉である。抹茶の泡立て器の竹の曲線や、お寺の屏風の唐紙の質感など、何世紀にもわたって受け継がれてきた技術を連想させる。

 

日本のクラフトシーンを大胆に切り開いた現代の作品たち。それらは、工芸の盛んな北陸地方で急成長を遂げているニューウェーブ、いわゆる工芸作家と呼ばれる、金沢を拠点に活動する二人の若手作家によって命を吹き込まれたのだ。

 

鉢の背後には、ロエベ財団クラフトプライズ2019のファイナリストである中田真裕がいる。彼女は、伝統的な工芸品の形を長年研究してきた後、漆器という媒体を用いて、「煙、炎、雷雲」からインスピレーションを得た流動的なフォルムと深みのある表面を持つ、時代を超越したミニマルな抽象作品を制作している。

 

Photo by Nik van der Giesen

 

そして、このガラスは?これは、現代美術家の佐々木類が制作したSubtle Intimacyという作品である。ガラスにまつわるあらゆるものを扱う現代アーティストである彼女は、時間の中の瞬間を記録することや文化的な違いへの強い興味と、彼女の高度に発達した工芸技術を融合させ、コンセプトに命を吹き込む。

 

Photo by Nik van der Giesen

 

現代アートと伝統工芸は、そのようなクリエーターたちの作品を通して表裏一体となっている。特に北陸では。漆器、銅器、和紙、金箔などの豊かな工芸品の産地として古くから知られてきた北陸は、その恵まれた湿度、豊かな自然、歴史的な文化政策、封建時代の起業家精神などを背景にしてきた。

 

今日、この地域では、伝統的な素材をコンセプチュアルな表現に融合させ、インパクトのあるもの、予測不可能なものと美的工芸品を混ぜ合わせた現代のクリエーターの例が数え切れないほど登場しており、クリエイティブなシーンが新たな章の入り口を迎えようとしていることを示している。

 

つまり、新世代の工芸作家は、コンセプトを出発点にして、高度な技術を駆使してアイデアを形にしていくことが多く、それとは対照的に、伝統的な職人は何十年もかけて技術を磨いてから美的な作品を作る。

 

この地域のクリエイティブシーンでは、このような例を目にするのに時間はかからない。KUMU 金沢 by THE SHARE HOTELSにおけるデザイナーの関祐介氏によるインテリアは、幾何学的なラインで工業用の露出したコンクリートの上に浮かんでいる木材の建具のモジュラーグリッドの天井に反映されているように、武家文化、禅宗、茶道といった金沢の豊かな歴史を現代風にアレンジしている。

 

ホテル内には、書道のモチーフから塑像まで、いわゆるニューウェーブの工芸品が至る所に散りばめられている。5階にある「釜」は、金沢美術工芸大学出身の作家・木谷洋が、銅、石、ブラックウォールナット、真鍮などの原始的な素材を用いて、茶道具を現代的に構成した瞑想的な作品である。

 

 

金沢21世紀美術館の館長を10年間務め、新世代の現代工芸作家を世界に送り出す展覧会を企画してきた秋元雄史氏は、「工芸とアートの境界線が変わりつつある」と指摘する。

 

「10年前の工芸は、もっと伝統的だった」と語るのは、直島を世界のアートの中心地にした先駆者として知られる、上野の東京藝術大学大学美術館館長・教授の秋元氏。「しかし、工芸の世界はますます現代美術の分野に進出してきています。現代アートと工芸は接近しており、その境界線はますます重なり合っています。」

 

Photo by Nik van der Giesen

 

その一例として、竹工芸の名家の四代目である四代田辺竹雲斎を挙げている。彼は、大規模なサイトスペシフィックなインスタレーションで知られ、その流れるような曲線と織られた有機的なテクスチャーが、時代を超越した現代的な効果をもたらしている。

 

「私が21世紀美術館の館長をしていた頃、これらの新進気鋭の作家を紹介するために、いくつかの展覧会を企画しました」と彼は説明する。「これらのアーティストはその時点ですでに活動していましたが、これらの展覧会を開催することで、人々の目により視覚的に映るようになり、境界線がだんだん小さくなってきました。」

 

さらに付け加えて、「工芸に関する様々な団体の多くはまだ保守的で、昔からのスタイルを維持しているように見えます。若い作家たちは、自分たちの作品を展示する場を見つけるのに苦労しており、それが展覧会を開催し始めた理由の一つです。」

 

「工芸と現代アートという2つのカテゴリーの橋渡しをしている若い作家が増えてきていますが、彼らの作品を展示し、現代アートと工芸の2つの側面を見てもらう機会を作ることが重要だと思います。さらに、現代アートだけでなく、工芸として見ることも重要です。」

 

そして、そのような動きの中で肝となる役割を果たしているのが、深いものづくり文化が息づく、北陸である。秋元氏は、北陸地方の工芸の独特の成り立ちを強調する。「工芸は日本全国に散らばっていますし、生産地もたくさんあります。しかし、北陸との大きな違いは、北陸ではほとんどの種類の工芸が集積していることです。その大きな理由の一つは、江戸時代の前田家が文化政策として工芸を奨励したことにあります。そしてもう一つの影響は、現在も続く金沢の茶道文化です。」

 

「金沢が京都などの地域と異なるもう一つの大きな要因は、産地と使う人が同じ地域にあるということ。ここでは作り手と使う人の距離が近いのです。」

 

しかし、秋元氏は、工芸遺産のアイデンティティである地域性と、創造的でコンセプチュアルな表現の自由との間で、微妙なバランスを保つことの重要性も強調する。

 

「工芸は日本だけでなく、イギリス、フランス、イタリアなど海外にも存在し、それぞれの場所には、地域からの一定の影響と地域性が存在します。お互いの工芸を理解し、コミュニケーションをとることが大切です。工芸が、世界中の現代アートと同じになってしまうのは工芸にとって良くないし、独自の特性を持ち続けるべきだとも思います。」

 

北海道出身の中田真裕さんにとって、クリエイティブへの道は、地理的にもコンセプト的にも蛇行してきた。数年ごとに国内を転々とする営業職を経て、「自分にしかできないことに専念したい」「自分の手を使いたい」と考えたそうだ。

 

Photo by Nik van der Giesen

 

彼女は雑誌に掲載されていた靴作りの記事や、書道を習っていた頃の思い出など、本能的な創作の糸口をたどっていくうちに、偶然にも香川漆芸の世界にたどり着いた。

 

その後、何人もの人間国宝が教壇に立つ香川県漆芸研究所で、5年間の研鑽を積み、今では作品に彼女の命を吹き込み、精緻な作品を生み出すことができるようになった。

 

 

そして3年前に、卯辰山工芸工房に入るために北陸に移住した。金沢卯辰山工芸工房は、陶芸、漆芸、染、金工、ガラスの5つのカテゴリーに特化した、新世代クリエーターのためのインキュベーションスペースとして高い評価を得ており、各作家に3年間の制作場所を提供し、専門スタッフのサポートやメンバーとのコラボレーションの機会を提供している。

 

「作家になるための方法は、一つではありません。」と中田さんは言う(金沢のハイアットセントリックホテルにも炎のような色の器がある)。「香川県にいた時は伝統的な茶道具や箱を作る技法をゼロから学びました。金沢では、作品は変わってきました。ここには、モダンを感じる場所がたくさんあります。今は作ってみようと思うものを自由に作れるようになった気がします。作品のサイズは、抱きつけるほど大きくなり、形は流動的になりました。」

 

飛翔する鳥、雷と稲妻の衝突、都市の密度などをテーマに、静かにミニマルでエレガントな流れるようなラインを、蒟醤という漆の技法を用いて様々な色相で表現している。

 

「作品を通して、今この瞬間に感じたことを、時代を超えて共有したいと思っています。漆は何千年も残る可能性のある素材です。わたしの作品が、人々の互いに理解し、繋がり、語り合うための道具となる事を願っています。」

 

現在、金沢卯辰山工芸工房ガラス工房の専門員を務める佐々木類さんにとって、ガラスを扱うことへの最初の興味は、子どもの頃に休暇を過ごした沖縄での素材との出会いにさかのぼることができるかもしれない。

 

その後、アメリカへの海外留学を経て、日本に帰国した際にリバースカルチャーショックを受けたことをきっかけに、親しみのあることと親しみのないこととの間にある違和感に深く興味を持ち、ノスタルジアや感覚、故郷の意味などを探求するようになる。

 

Photo by Nik van der Giesen

 

彼女のコンセプチュアルな作品は、作品をビジュアル的に見ると多岐に及んでいるが、ガラスという素材とある一時を記録したいという根底にある思いの両者によって、縒り合わされて制作されている。― Subtle Intimacyの作品シリーズに見られる植物や花の脆くも硬質な感じから、Self-Container No.1の作品のように無数のガラスの糸が絡み合う繭のような人間サイズの巣まで。

 

「ガラスは脆いですが、家には窓があり、私たちを守ってくれています」と佐々木さんは、作品のように爽やかに説明する。「つまり、ガラスは守ってくれるけれど、壊れやすいし、砕けてしまうこともある。熱かったり冷たかったりもする。また、ガラスは完全な液体でも固体でもなく、分子は常に動いています。特別な素材なのです。」

 

「私は常に瞬間を記録することに興味があります。ガラスを使っているのは、ガラスの輝きに興味があるわけではなく、ガラスが事物を保存できることに興味があります。私はコンセプチュアルなアーティストだと人から思われていますが、私にとって、素材もとても大切なのです。」

 

雪と陽の光が一日に何度も移り変わる金沢では、天気は重要な会話のトピックだ。そして、天気は佐々木さんにとっても、もう一つのインスピレーションのきっかけになっている。彼女は、その土地の人々と地域の関係性を探求するために「ヨーロッパで最も雨の多い都市」であるノルウェーのベルゲンで過ごした。

 

  • 「Liquid Sunshine」2016 年 / Photo by Pal Hoff
  • 「Liquid Sunshine」2016年  / Photo by Pal Hoff

彼女の探求は、水滴または水泡のような繊細で美しく極めて優美なフォルムで、穏やかに発光する(そして徐々に消えていく)無数の蓄光物質を閉じ込めた吹きガラスのピースで構成され、天気をテーマとする大規模なインスタレーション作品シリーズ「Liquid Sunshine」へとつながっていった。

 

  • 「Liquid Sunshine / I am a Pluviophile」2019年 / コーニングガラス美術館蔵 /The 33rd Rakow Commission. Photo by Yasushi Ichikawa. Courtesy of The Corning Museum of Glass
  • 「Liquid Sunshine / I am a Pluviophile」2019年 / コーニングガラス美術館蔵 /The 33rd Rakow Commission. Photo by Yasushi Ichikawa. Courtesy of The Corning Museum of Glass

結局のところ、佐々木さんにとっては、多くのクリエーターと同様に、工芸作家であれコンセプチュアルアーティストであれ、自身が創作を続けることができれば、そのカテゴリーは重要ではない。そして、彼女にとって、今のところ金沢よりも居たいと思う場所は他にはないのである。

 

「日本では工芸作家というよりも現代アーティストという感じですが、海外では工芸作家と見られているかもしれませんね」と彼女は微笑む。「人々は私を本当の意味で分類できません。そしてそれは、おそらく良いことだと思っています。」

Danielle Demetriou(ライター、編集者)

ダニエル・デメトリウは、東京を拠点に活動するイギリス人ライター・編集者。ロンドンの全国紙に長年勤務した後、2007年に来日。イギリスのデイリー・テレグラフ紙の日本特派員であるほか、国際的な雑誌(Wallpaper*、Conde Nast Traveller、Architectural Review、Design Anthologyなど)でデザイン、ライフスタイル、旅行に関する記事を執筆している。日本のデザイン、建築、クラフトマンシップに夢中で、沖縄から北海道の最北端まで(その間にある他の多くの場所も含めて)日本全国でこれらのテーマを取材してきた。そして、彼女の秘密の趣味は(初心者の)陶芸家であること。

http://www.danielledemetriou.com/