〜金沢を歩けば工芸に出会う〜【前編】
展覧会で楽しむ「金沢21世紀工芸祭 -工芸回廊-」

  • 「石川県立博物館」で行われた「工芸回廊 in 歴史博物館」

“町なかに広がる工芸の世界”をコンセプトに「金沢21世紀工芸祭」※の主要イベントとして開催されている「工芸回廊」。2020年は「国立工芸館」が開館し「金沢21世紀美術館」に隣接する広坂周辺が会場になりました。GO FOR KOGEIでは10月23日〜25日「工芸回廊 in 歴史博物館」と、10月10日〜11月3日「工芸回廊 in 広坂」について【前編】【後編】に分けてレポートいたします。

 

金沢21世紀工芸祭:石川県・金沢市を舞台に開催される、工芸の魅力を発見・発信する大型フェスティバル。工芸回廊、趣膳食彩、金沢みらい工芸部、金沢みらい茶会、アートスペースリンクなどのコンテンツを展開しています。

 

「工芸回廊 in 歴史博物館」と「国立工芸館」開館で賑わう本多の森へ

  • 堀 貴春(陶芸):White Hymenopus coronatsus
    展覧会の会場中央で、今にも動き出しそうな巨大カマキリ。幼い頃から大好きな昆虫に制作のヒントをもらい、造形的な美しさや、構造的な面白さなどを作品に溶け込ませることで独自の表現を目指している新進気鋭の作家・堀貴春の作品。

  • 長井 未来(金工):打出象嵌箱「繚乱」
    象嵌、打ち出し、すかし彫りなど、伝統的な彫金技法を用いて制作。蓋には百花繚乱のごとく花が咲き乱れ、箱のみの部分には天に向かって伸びる茎・葉を象嵌で表現している。

  • 富永 一真(ガラス):青のかたちをつくる
    野菜や果物などの自然物をモチーフに、吹きガラス技法で流動性や膨らみをいかして造形している作家。今回は吹きガラスとキルンワークで展覧会の会場に映える大作を出品。

  • 森本 道恵(加賀ゆびぬき):錦秋
    秋色に染まる樹々の葉が、陽光に照らされているような艶やかさ。赤、オレンジ、黄色、緑のグラデーションが美しい。

「工芸回廊」のメイン会場は「石川県立歴史博物館」。かつて加賀藩の筆頭家老・本多家の屋敷があった「本多の森公園」には、「いしかわ赤れんがニュージアム」と呼ばれる「石川県立歴史博物館」「加賀本多博物館」や「石川県立美術館」などの文化施設が集まっています。

 

この秋、ここに東京から「国立工芸館」が移転・開館し、全国から注目を集めるスポットに。今回の「工芸回廊」が「石川県立博物館」をメイン会場に、広坂エリアで開催されたのも、10/25の「国立工芸館」の開館にあわせて企画されたからです。

  • 中島 ゆり恵(金工):月船
    真鍮と錫を用い、彫金と透し彫りで仕上げた作品。月影を映す水面を漂う三日月の船、はたまた夜空の海をわたる船か。

  • 古田 航也(金工):LIFE アルマジロトカゲ
    今にも動き出しそうな生命感。江戸、明治の頃に作られていた自在置物に感銘を受け「現代版自在置物」を制作する作家。鍛金、彫金の技法を用い、銅や真鍮といった金属で身体から関節のパーツまで一つひとつ手作りしている。

  • 大下 百華(漆芸):Secret Garden brooch
    版画やドローイングなどのアートワークを手掛けながら、自身の実家である漆工芸大下香仙工房が展開する蒔絵ジュエリーブランド「Classic Ko」のドールブローチシリーズを中心にデザイン・制作している。

  • 小早川 眞理子(金工):まう
    シルバーを貴重に、漆・蒔絵などの伝統工芸も取り入れ、さまざまな素材とのコンビネーションでモダンな作品を制作するジュエリー作家。

「工芸回廊 in 歴史博物館」では、全部で21名の作家の作品がスポットライトを浴びて展示されていました。陶芸、金工、漆芸、ガラス、加賀友禅や金沢に伝わる希少伝統工芸まで、伝統的な工芸もあれば、現代アートを思わせる作品もあり、ミニマムでシャープな展示は、それぞれの作家の個性を際立たせ、多様なスタイルと金沢の工芸の幅の広さを実感させてくれるものでした。

 

時には作家が在廊することもあり、直接話を聞ける機会に恵まれることも。この日は作家の今西泰赳さんが会場に来られていました。今西さんは分子細胞学を研究し、博士号をもつ研究者から陶芸作家に転身。現在は金沢を拠点に活動されていますが、実は奈良県の窯元の3代目でもあります。

  • 今西 泰赳(陶芸):Cell Cluster
    直訳すると細胞の集まり。「生命エネルギー」の力強さとダイナミックさを、土という素材を用いて表現している。

  • 陶芸家の今西泰赳さん。

  • 透光性のある陶土を使っているので、下から光を当てると、より生命体のように見える。(作者本人が特別に光を当てて見せてくれました)

今西さんが出品した今回の新作も、研究で親しんできた細胞をモチーフに「生命エネルギー」を表現したもの。「新素材である透光性のある陶土を用いて、独自に作った釉薬と九谷焼の上絵の技術を応用したハイブリッドな作品になっています。 釉薬の皮膚と陶土の体(骨格)、そして上絵による細胞というイメージで製作した作品です」と、手に持つスマートフォンで作品の内側から光を通して見せてくれました。

  • 高木 基栄(ガラス):精神分析
    作品も本人もビジュアル系として活動するガラス作家。「伝統工芸の最新版」をテーマに、主に吹きガラスを用いて作品を制作している。今回の「金沢21世紀工芸祭」では、「石川県立歴史博物館」に加え、「工芸回廊 in 広坂 タイアップ」でショーウインドウの展示にも出品。

  • 山田 武志(加賀友禅):刺青(sisei)
    加賀友禅の伝統工芸士である作家が今回出品したのは、何とも肉感的な、ちりめんの絹地に刺青の紋様を描いたもの。加賀友禅の技法を用いて着物制作だけでなく、異業種とのコラボレートも行う作家のコンテンポラリーな作品。

  • 太田 志保(漆芸):電脳漆繭玉・ハチと花
    商社勤務後、制作会社へ転職、ディレクターとして科学館展示物等の教育コンテンツを手掛けるかたわら、2019年より漆芸に電子工作を組み合わせた「電脳漆繭玉」シリーズの制作を開始。この作品も、呼吸するように内側から光が点滅する。

  • 酒尾 孝基(陶芸):捥ぎる等
    新しい土の動きを作ろうと思い、ほじる、もぎる、など試行錯誤しているという。現代の生活に「そこに生物がいる」という空気感を楽しんでもらえるモノとして草花にあう花器を制作する。

会場の作品は2作品をのぞいて誰でも撮影OKで、ほとんどの作品が360度ぐるりと回り込み、目線の高さで間近に鑑賞できました。旧陸軍の兵器庫をリノベーションした建物なので、作品の背景にレトロなアーチ状の窓が映り込むと趣もあり、多くの方がお気に入りの作品を写真に収めていました。

 

多くの作品を一堂に鑑賞できる展覧会形式だったことや、市街地の中心部で工芸館・美術館に隣接した立地も影響して、周辺の文化施設とあわせて回遊しながら楽しむ方も多く、地元客・観光客ともに年齢も幅広かったように感じました。

 

  • 中村 滋(加賀竿):タナゴ竿
    竹、絹糸、漆を使ってつくられる希少伝統工芸。武士のアユ釣りに用いられてきた竿の世界に魅せられ、教員を退職して加賀竿づくりの世界に入ったという。堅牢かつ、繊細で優美。竿を収める漆塗りの筒も美しく、趣味の道具には特別な魅力が宿る。

  • 保木 詩衣吏(ガラス):雪溜まり V
    板ガラスに陶芸用釉薬で絵付けを施し、焼成、研磨して作品をつくる。ガラスに雪や落葉など朽ちていくものを”溜める””留める”ことをテーマとし、器をモチーフとした制作を行うという。今年の「金沢21世紀工芸祭」では、「工芸回廊 in 歴史博物館」の大作展示のほか、「趣膳食彩」の「料亭の出仕事」で「大友楼」とのコラボレーションでも食の器が使用される。

  • 魚津 悠(陶芸):mist
    まるで白い花に朝露がおりたよう。自然の造形を写し取ったような作品は、「時間のカセキ(化石)」をキーワードに焼成中に生じる粘土の歪みや釉薬の流れる様子など、素材が持っている現象を取り入れている。

  • 河野太郎(金工):もりのかたち
    蝋を金属に置き換える「蝋型鋳造」を用いて「森」をテーマに作品を制作している。

  • 吉田純鼓(陶芸):赤江細描
    九谷焼伝統絵付技法の一つである赤絵細描を主に、ガラス質の色絵等を施しながら、赤絵と色をコンセプトに制作している。

  • 白岩玲子(陶芸):しましまのうつわ
    掻き落とし技法を用い、時には白い磁土に砂やレンガ屑を混ぜ込んで高温で焼き締めている。

  • 増井洋子(陶芸):古代緑ダエン bowl
    “古代緑”と名付けられた独特の緑色と質感が特徴の作品。

  • 長谷川真希(金工):ネックレス「夜明けのダリア」
    ダリアの花に陽が差し込んだ瞬間を、上部はプリカジュール(透胎七宝)、下部は象嵌で表現したネックレス。


 

【 金沢21世紀工芸祭 2020 -工芸回廊- 】

>> 工芸回廊パンフレットのダウンロード

■工芸回廊 in 歴史博物館 >> REPORT 前編

【期間】10月23日(金)〜25日(日) 【会場】石川県立博物館

伝統工芸から現代アートとしての工芸まで、多彩な作家21名による展覧会。入場無料、作品購入可。

■工芸回廊 in 広坂 / タイアップ >> REPORT 後編

【期間】10月10日(木)〜11月3日(祝・火) 【会場】広坂商店街

広坂エリアで歩道を散歩しながらウインドー越しに工芸巡りが楽しめる展示。入場無料、作品購入可。

 

坂下有紀(つきといと/コミュニケーションディレクター)

富山県氷見市出身。石川県金沢市を拠点に活動する編集者・ライター・プランナー。タウン誌の編集者、ワイナリーや酒蔵勤務を経てフリーランスに。金沢暮らしは2008年から。学芸員・利酒師の資格も持つ、旅と歴史とお酒好き。陶芸・吹きガラス・漆芸・木工・金工・和紙と、興味のある工芸は自分でも挑戦してみるタイプ(そこそこ器用です)。