《前編》 上出惠悟が「窯まつり」で伝えたいこと

窯の火や文化を絶やしてはいけない。例年5月に開催している「窯まつり」を、9月19日(土)〜21日(月・祝)に開催することにした九谷焼の窯元「上出長右衛門窯」。6代目として窯のディレクションを行う一方、個人の作家としても活動している上出惠悟さんに、「窯まつり」のこと、事業や作品のこと、ブランディングに込めた想いなどをうかがいました。

 

─もうすぐ上出長右衛門窯の「窯まつり」が開催されますね。

2020年の「窯まつり」について教えてください。

 

九谷焼の窯元・上出長右衛門窯では、品物の背景にある職人の手仕事を知っていただきたいと、毎年5月に日頃の感謝を込めてお客さまを窯場へお招きする「窯まつり」を開催してきました。

 

2020年は新型コロナウイルス感染拡大を受けて、例年の5月から9月に時期を延期しました。今も不安な日々は続いていますが、事前のチケット購入による完全予約制で、人数と滞在時間を制限するなどの感染防止対策をして開催します。

 

工場見学や定番品の販売のほか、製造過程で出てしまう「たまさか品」や「窯まつり限定品」の販売はいつものように行い、企画展飲食の素敵なテント出店もあります。さらに、今回は「窯まつり限定品」のオンライン販売や会場からのライブ配信も行うなど、直接会場へお越しになれない方にも楽しんでいただけるように準備しています。

  • 毎年5月に開催されてきた「窯まつり」の様子。同時期に開催の「九谷茶碗まつり」と両方を訪れる人も多い。(Photo:Yoichi Naiki)

  • 2020年の上出長右衛門窯「窯まつり」は9月19日(土)〜21日(月・祝)に開催。

  • 2020年9月の「窯まつり」でも、人気飲食店や雑貨のテント出店が楽しめる。(Photo:Yoichi Naiki)

─「窯まつり」ではGO FOR KOGEIの

STUDIO & WORKSHOP TOURS」も行われますね。

 

「窯まつり」の3日間のうち、GO FOR KOGEIの「STUDIO & WORKSHOP TOURS」の企画として、9月19日(土)・20日(日)の14:00から「上出惠悟の案内付き工場見学」も行います(満員締切済み)。

 

9月20日の13:00〜13:50に、越前和紙の伝統工芸士 瀧英晃さん(瀧製紙所)とのトークセッションも会場で行い、YouTubeでライブ配信する予定です。14:00からの工場見学もライブ配信されるので、ツアーに参加できなかった方もオンラインで楽しんでいただけます。

 

YouTubeライブ「GO FOR KOGEI – ONLINE STUDIO TOUR -」

https://youtu.be/Jy2yu2izQN0 左記URLから以下の3番組が無料でご覧いただけます

■9月20日(日)12:30-12:50 能作オンライン工場見学 案内人:能作千春
■9月20日(日)13:00-13:50 KOGEIトークセッション 上出惠悟(九谷焼)×瀧英晃(越前和紙)
■9月20日(日)14:00-14:30 上出長右衛門窯 窯まつり オンライン見学 案内人:上出惠悟

  • 9月20日にYouTubeで生配信される「KOGEI トークセッション」の対談相手は、越前和紙の伝統工芸士・瀧英晃さん。伝統工芸をになう若手の対談に乞うご期待。

  • ネットでチケット予約が始まり即完売になった限定の「上出惠悟の案内つき工場見学」がYouTubeの生配信なら無料で見学できます。

  • 9月20日のYouTubeライブは合計3番組のラインナップ。

─「窯まつり」を始めたきっかけは何ですか?

 

毎年5月のゴールデンウイークに石川県能美市にある九谷陶芸村で「九谷茶碗まつり」という九谷焼の陶器市があり、数年前まで「上出長右衛門窯」もブースを出していました。2020年は新型コロナウイルスの影響で中止になりましたが、今年で112回目を迎える長い歴史のあるイベントです。

 

もとは九谷焼の中興の祖・九谷庄三を祀る「寺井九谷神社」と、陶祖・斉田道開を祀る「佐野陶祖神社」で行われていた慰霊祭が合同で行われるようになり、今のような形になりました。最近はつくり手さんの出店も増えていますが、問屋さんの出店が多い商業色が強いイベントで、会場ではセール品から有名作家の高級品までが、ごちゃまぜで売られていてお客さんには区別が難しい気がしています。

  • 9月20日(日)と21日(月・祝)GO FOR KOGEIの「STUDIO & WORKSHOP  TOURS」で上出さんが工場内を案内してくれる様子がYouTubeでも配信される。

転写で作られた九谷焼もたくさん並んでいるなかで、「長右衛門窯はすべて手描きです」と言い続けていても、手描きの価値がなかなか伝わらない。お客さんから1客の茶碗でも「5客セットの値段でしょ?」と言われ、高いと思われてしまう。“もどかしさ”を感じていました

 

昔から職人総出で茶碗まつりに出店していたけれど、少しずつ売れなくなっていき、最近は店番をしていても暇なので「窯に戻って仕事したい」とか言い出して。だったら、お客さんを窯へ連れて行って職人が働く様子を見せたら、値段の理由をわかってもらえるのではないかと思ったのが発端です。最初はイベントではなく、「九谷茶碗まつり」を訪れた友人・知人に窯を案内することから、ささやかに「窯まつり」を始めました。

  • 工場の1階で轆轤や型を使った作陶が行われる。

  • 作業に用いられる道具や職人さんの手元を見ているだけでも面白い。

  • 「上出長右衛門窯」の職人は関西や北海道など、県外出身者が多い。

─「窯まつり」で人気の「たまさか品」について教えてください。

 

二等品のことを僕たちは「たまさか品」と呼んでいます。これは新しく作った言葉です。二等とかB級とかじゃなく、何か特別な呼び方はないかと考えていたのですが、「たまさか」っていうのは滅多にないこと、思いがけないことっていう意味で、市場に出せない品との出会いという意味で名付けました。陶器市は普段なら市場に並ばないものが、お手頃価格で入手できるのが醍醐味だと思います。

 

当初は一等品を「茶碗まつり」で売って、「たまさか品」は「窯まつり」で売るという風に分けていましたが、「売れ筋のたまさか品は茶碗まつりでも置きたいよね」とか、限りある品物を別けるのが難しく、お客さんがわかりやすいように、思い切って「九谷茶碗まつり」では「上出長右衛門窯」の出店自体をやめ、私が代表をつとめる会社が運営する「クタニシール」という別のブランドで出店することにしました。

  • 掘り出し物を見つけようと、多くの人が「窯まつり」の「たまさか品」販売を楽しみにしている。(Photo:Yoichi Naiki)

─「クタニシール」はどのようにして誕生したのですか?

 

「クタニシール」は2009年に立ち上げ、現在オリジナルの転写シールを用いたプロダクト開発とワークショップをしています。九谷焼には転写という量産技術が、手描きとは別にあることを知ってもらいたかったからです。

 

だから、「窯まつり」と「クタニシール」は実は兄弟みたいなものなんです。「窯まつり」は手描きや手作りの製品と、その背景にある技術を見せることが趣旨。「クタニシール」は、九谷焼には転写という技術もあることを伝えるのが目的。茶碗まつりで感じていた“もどかしさ”のアウトプットが、二つの形になったという感じです。

  • 水で濡らした転写シールを白い皿に配置し、焼き上げると九谷焼の絵皿が完成する。

─転写技術をオープンにした「クタニシール」は、業界のタブーではありませんでしたか?

 

それまで、どちらかというと隠された技術でしたので、タブーだったかもしれません。多分、20〜30年前に同じことをしていたら、業界から総攻撃を受けていたかもしれないけど、特に責められることはなかったです。逆に「転写の価値を上げてくれてありがとう」と言ってくれた方もいました。

 

転写が悪いということではなく、消費者にちゃんと手描きと転写を区別して、それぞれのよさを正しく伝えたいということなのです。最初は九谷焼の転写業者から量産用に販売されている既製品の転写シールを使ったワークショップをしていましたが、その絵柄の九谷焼が金沢のお店で普通に売られているのを見つけて「これはいけない」思い、オリジナルのシールをデザインすることにしました。最初は批判を恐れて地元のメディアにも出ないようにしていましたが、加賀棒茶の「丸八製茶場」さんと「加賀いろは テトラシリーズ」でコラボ商品を出すようになると、さすがに隠せないと腹をくくりました。

  • クタニシールは九谷焼のプロダクトから、加賀棒茶「丸八製茶場」の新商品「加賀いろは テトラシリーズ」へと発展。九谷焼の代表的な五つの色彩を元に、紫・赤・黄・緑・紺青をテーマカラーにした五つの味のパッケージ、茶缶などがデザインされた。

「丸八製茶場」さんから「カジュアルで新しいティーバッグのお茶をつくりたい」とデザインの依頼を頂いたんです。当時、大学を卒業して間もない僕にお話を頂き恐縮しました。それに、僕は丸八さんにとてもオーセンティックなイメージを持っていたので、ティーバッグと聞いて驚きました。

 

しかし、ティーバッグだからといってお手軽さを強調するのではなく、「一つのお茶の作法」であるという丸八さんの考えに、「クタニシール」の志に共鳴するものを感じて、ご一緒させて頂くことにしました。

  • ショールームで加賀棒茶を飲みながらインタビュー。

発売後は、丸八さんのファンから批判的なご意見もあったみたいで、僕自身もやっぱり「丸八製茶場」が大好きだったので、「本当にいいのかな?」「売り方を変えた方がいいのでは?」と思ったりしていました。開発している時は東山のお店「茶房 一笑」をスターバックスのようなティーバッグのお店にするって聞いていたから(実際はそうならなかった)。

 

僕らはクタニシールと長右衛門窯の作品を一緒に並べないようにしています。それは器に手で直接絵を描くのと、あらかじめ印刷された絵を器に貼るのは、本質的に作り方が全然違うものだと思っているから。両者が混同されることを恐れています。だから、長右衛門窯の6代目として僕はあえて「クタニシール」については、ほとんど発信していません。

─「窯まつり」に参加されているお客さまの反応はどうですか?

 

毎年アンケートをしていて、喜んでくれる方がすごく多いし、「価格の理由がわかりました」って言ってくれる方もいて。だけど、毎年イベントの準備をしているときは「誰も来てくれないんじゃないか」って不安になります。でも、去年も初日の朝一番に受付にたくさん並んでくれているのを見ると、ありがたいなって思いました。

 

今年は完全予約制ですが、チケットで儲ける気はまったくなくて、入場チケットには800円分のお買い物券が付いているので、買い物を楽しんでもらえたらと思っています。

  • 2020年は子年。窯まつりでは、ねずみの陶工ちゅう右衛門の企画展も予定しています。※けん玉は非売品です

  • ちゅう右衛門は、明治十二年生まれ。上出長右衛門窯に創業当時から棲むねずみであり陶工。歯や爪を活かした成形と長い尻尾で絵付を行うなど、ねずみとは思えない高い陶工技術を持つ。2009年に生誕130年で初の個展を開催。(Photo:上出長右衛門窯)

  • 長右衛門窯の工場内に棲みつき、夜な夜な作陶活動にいそしむとされる「ちゅう右衛門」の久しぶりの作品展。もしかしたら、ちゅう右衛門翁の工房公開も!?

─「窯まつり」でのワークショップは、今回も体験できますか?

 

今年は残念ながら「窯まつり」会場でワークショップはできませんが、代わりにGO FOR KOGEIの「STUDIO & WORKSHOP TOURS」に参加しているCERABO KUTANI(九谷セラミック・ラボラトリー)」で、9月19日(土)〜22日(火・祝)の4連休に上出長右衛門窯のワークショップができることになりました。「招き猫」「犬盃」のほか、笛吹や鳥の絵柄が描かれた器に塗り絵をしていく「塗り絵皿」の体験ができます。

 

「CERABO KUTANI」は2019年にオープンした磁器土を製造する製土工場が見学できたり、九谷焼の絵付けやロクロを使った作陶体験もできるので、ぜひうちの「窯まつり」と合わせて遊び行ってみてください。

  • 「CERABO KUTANI」で体験できる「上出長右衛門窯」の「招き猫」「犬盃」の絵付けワークショップ。

  • 「CERABO KUTANI」で体験できる「上出長右衛門窯」の「塗り絵皿」のワークショップ。

  • 「CERABO KUTANI」は2019年にオープンした九谷焼の複合型文化施設。九谷焼の原料となる磁器土の製造スペースとギャラリー、陶芸体験スペースも併設。


 

上出長右衛門窯「窯まつり」

日時/2020年9月19日(土)〜21日(月・祝)
※時間割(全日共通・入替制)、事前予約制
①開場9:00/退場10:50/定員50人
②開場11:00/退場12:50/定員60人
③開場13:00/退場14:50/定員70人
④開場15:00/退場17:00/定員70人
料金/1,000円(窯まつりで使える800円分の割引チケット付き)
詳細・ご予約/
https://passmarket.yahoo.co.jp/event/show/detail/011zdg114ah94.html

 


 

GO FOR KOGEI「STUDIO & WORKSHOP TOURS」

窯まつりへのご入場と、上出惠悟による工場見学ツアー

日時/2020年9月20日・9月21日 14:00~14:30、開場13:00〜退場14:50
料金/1名5,000円
※窯まつり入場料を含む
※窯まつりで使える800円分の割引チケット、お土産付き
定員/5名様
体験時間/30分(会場には13:00よりご入場頂けます)
詳細・ご予約/
https://goforkogei.com/studio-workshop/kamidechoemongama/

 


 

《後編》 窯元の後継者、プロデューサー、作家としての上出惠悟

インタビュー記事は >> コチラ

PROFILE

上出惠悟
1981年、石川県能美市に生まれる。1879年(明治十二年)創業の九谷焼窯元・上出長右衛門窯の5代目の長男で6代目候補。「合同会社 上出瓷藝」代表。石川県立工業高校卒業後は東京芸術大学に進み、2006年に同学美術学部絵画科油画専攻を卒業。現在は窯のディレクションを行う一方、個人の作家としても活動している。

坂下有紀(つきといと/コミュニケーションディレクター)

富山県氷見市出身。石川県金沢市を拠点に活動する編集者・ライター・プランナー。タウン誌の編集者、ワイナリーや酒蔵勤務を経てフリーランスに。金沢暮らしは2008年から。学芸員・利酒師の資格も持つ、旅と歴史とお酒好き。陶芸・吹きガラス・漆芸・木工・金工・和紙と、興味のある工芸は自分でも挑戦してみるタイプ(そこそこ器用です)。