人が育ち文化が根づく、新たな地域文化としてのガラス 
10/3-4 富山ガラスフェスタ

富山はガラスの街です。街中に点在するオブジェ、中心地にあるガラス美術館、グラスアート専門の教育機関、製作体験が充実したガラス工房と工房主催のガラスフェスタ…富山とガラスがピンとこない人も、ここに集うたくさんの人々の笑顔をみたら、富山でガラスに触れたくなるはず。ガラスフェスタ2020でうかがえたのは、市民生活に根づいて愛されるガラスの姿でした。

 

世界で一番大きな市民参加型工房

 

高く組まれた足場から、びよーんと地面に向かって伸びていくオレンジ色のガラス。空気を吹き込まれながら下からも引っ張られ、計測するとなんと4メートル。

 

富山ガラスフェスタの「TGSカップ」は、プロのガラス作家たちが手吹きガラスの「長さ」を競う、一風変わったガラスの競技大会だ。

 

ガラスが重力のままに伸びて床についてしまうと失格のため、伸びきらないギリギリを狙って、振り子のように大きく振り回されたり、慎重に少しずつふくらまされたり。ダイナミックな動きと繊細な変化が入り混じる様相に、思わずじいっと見入ってしまう。

  • 飴のように伸びるガラス。素材のおもしろさが五感に訴えてくる

  • 軟化しているガラスの温度はおよそ1000℃前後(軟化し始めるのが700℃、作業温度はそれ以上)

  • 両側から引っ張られ、どこまでも伸びていくガラス

  • 扱いには分厚い手袋をはめて。長さの計測中

  • 振り子のように揺さぶられるガラス。観客席のあるスタジアムのような工房

例年は海外からの参戦もあるところ、今年は新型コロナウィルス対策のため、参加者はガラス工房所属の作家や、隣接するガラス造形研究所の教員に限られたアットホームな開催となった。とはいえ、客席はお客さんで満員。屋外からも、人数制限のために入場できなかった人たちが競技の行方を見守る。

 

「普段の作品制作とは違うさじ加減が必要だから、けっこう難しいんですよ」と、富山ガラス工房の名田谷隆平さん。

会場である第二工房は、「世界で一番大きな市民参加型の体験工房」だという。

 

「ガラスが好きな人も、今までガラスに興味のなかった人もここに来てもらう。ここはガラスを地域文化として根づかせていくための拠点なんです」

 

普段は製作体験の場として、一般開放されている工房。驚くほど天井の高いドーム型空間の中心奥にはガラスの炉があり、逆側半面には制作の場を眺める階段状の客席が設えられている。

 

「アメリカの現代グラスアートの巨匠、デイル・チフーリという作家がいるんですが、富山市ガラス美術館に展示されている彼のインスタレーションの一部はここでつくられました。アメリカから彼がチームでやってきて、市民への公開製作という形をとって。イタリアやオーストラリアなど国内外から有名な作家がここで製作のデモンストレーションをしたり、音楽会をすることもあります」

 

 

人を育てることで、文化が育つ

 

  • 建築自体がグラスアートのような富山市ガラス美術館(富山キラリ)。富山の素材であるガラスと石とアルミがキラキラと光を反射する

  • 2階ロビー

  • 富山キラリは富山市ガラス美術館と富山市立図書館とを擁す文化複合施設

今から30年前、富山市は若年層の都会への流出を背景に、魅力的な地域文化を育てようと、日本初の公立のガラス専門教育機関「富山ガラス造形研究所」を創設した。「ガラス」という素材が見出されたのは、当時まだ日本に本格的なグラスアートの文化がなかったところでの将来性と、薬の街・富山で流通していたガラス瓶との関連から。富山ガラス工房はその3年後、研究所の卒業生を文化の担い手たるプロの作家に育てようと開設された工房だ。

 

今ではガラス界における富山の知名度は大変高く、造形研究所には日本中、また香港、台湾、韓国、ノルウェー、エストニアといった海外からも入学者が集う。2015年には富山市の中心市街地に隈研吾設計の文化複合施設「TOYAMAキラリ」が新設され、吹き抜けが目をみはる建築物の上階には、現代グラスアートの展示に特化した「富山市ガラス美術館」が開館した。

 

「そうした中で、文化の担い手となる人材を育てる、工房の意味も増しています。学校が専門家を育て、工房が作家と市民の愛好家を育てる場として機能してきました。そのうえで美術館ができ、世界への情報発信ができるようになった。ガラスの学校、工房、そして美術館が揃っている場所は、全国的にも珍しいと思います」

 

ガラスフェスタは当時まだ街に根づいていなかったグラスアートに多くの人々に触れてほしいと始まったイベントで、今年で27年目を迎える。

  • 製作体験でつくれるペーパーウェイト。形、模様、配置がそれぞれ選べる

徐々に裾野が広がり、継続してきた手応えを感じる」と名田谷さん。

 

来場者の多くは県内・市内からの来場で、リピーターも多い。子ども時代の工房での製作体験からガラスに興味を持ち、研究所に入学、ガラス作家になった人も数人いるという。

 

たしかにTGSカップを見守る子供達のまなざしは真剣そのもの。TGSカップのようなデモンストレーションや、観光目的の「つくりもの」ではない、実際の製作が行われている工房での「ほんもの」の製作体験が、子供達にガラスを強く印象づけるのだろう。

 

工芸というと渋い、大人になってこそわかるものだと思いがちだけれど、育ちの中での経験がいかに重要か。「文化を育てるならば子どもから」なのだと認識があらたまる。

  • TGSカップの行方を真剣に見守る子供達

  • 体験でつかう設備もひとつひとつが本格的

工芸が「新しく」魅力的な文化になる

 

工房各所で実施されていた製作体験も、参加者は多くが子供達だった。たとえば「ものをつくるのが好き」という女の子は富山市在住の小学2年生。工房での体験は2度目で、初めてつくったのはコップ、この日は豆皿をつくった。

 

ガラスをじっと見つめる眼差しはとても真摯で、オレンジ色をしたガラス塊をクルクル回す手つきの確かさに驚いてしまう。手を動かして素材が形になることは楽しい。ものづくりが持つ根源的な魅力にも気づかされる。

  • 自分の手を通じてガラスが形づくられていく貴重な体験

  • 色をつけるためのガラス

もう1人お話をうかがったのは、同じく市内から参加の女性。3人のお子さんを子育てする中で、子ども達と一緒に何度も工房での製作を体験してきた。この日は、成人して結婚されたお子さんの、お嫁さんと2人での参加。

 

「家には作品がたくさんあります。ぜんぶブルーでそろえてるので、今日も青で。笑。ここは我が家にとって、とても身近な場所です」

 

ガラスが生活に寄り添い、思い出に彩りを添えてきただろうことがうかがえて、なんだか嬉しくなった。子どもたちとの思い出の場所へお嫁さんと一緒に来るって、なかなかグッとくるものがありませんか。

この製作体験、グラスやお皿がつくれる手吹きガラスは常時体験可能で、花模様のガラスを合わせてつくるミルフィオリ、ハロウィンのオーナメントなど特別製作体験も充実している。これは富山市民に限らず、大人も子どもも一度は体験してみたい。

 

さて、TGSカップの佳境にはオリジナリティが評価される創作デモンストレーションが行われた。なかでも印象的だったのが、おもちのように膨らんだガラスが重なった上に、繊細な梨の花が咲いた作品。

「今回はあんまり真面目になりすぎないで、肩の力を抜いて楽しめるようなことがしたくて」と話すのは制作者の1人、富永さん。

 

4月から研究所で助手として働いている富永さんは、3月まで金沢卯辰山工芸工房で活動していたガラス作家。大阪出身で大阪の芸大を卒業後、大学でのアシスタントの仕事を経て卯辰山へ、富山ガラス造形研究所での在任期間後は、金沢での独立を予定しているという。

「大学時代から、習った先生の多くが金沢卯辰山工芸工房出身だったり、北陸っていう地域への憧れがありました。それで住んでみたらすごくしっくり来たので、ここでやっていきたいなって」

 

富山のガラス造形研究所へやってきたのは「挑戦できる場所にいたかった」からだという。

 

「金沢ではお茶文化も背景にある工芸という大きな括りの中でのガラスですが、富山にはガラスに集中した環境があります。設備が充実しているから作品へのアプローチも様々で、ガラスといえば富山というのが根づいてきているので、国際的な交流も盛ん。ここにいると、海外との繋がりも感じられるんですよ」

 

時間をかけて育てることで、文化の根が張り、豊かな実が成り、人が集まってくる。

 

「育てる」姿勢の重要性を実感した富山ガラスフェスタ。「新たな地域文化」として土地に根づいていく工芸が、新鮮な可能性を感じさせてくれる。

 

 

 


 

<開催概要>

ガラスフェスタ

期間/2020.10月3日(土)〜4日(日)

時間/9:00~17:00

会場/富山ガラス工房 富山市西金屋85

主催/一般社団法人 富山市ガラス工芸センター

電話(工房)/076-436-3322 ※製作体験は常時受付

URL/https://toyama-garasukobo.jp/

 

 

籔谷 智恵(ライター)

神奈川県藤沢市出身。慶應義塾大学環境情報学部を卒業後、「人の手が持つ力」を知りたいと重要無形文化財「結城紬」の産地に飛び込み、ブランディングや店舗「結城 澤屋」立ち上げなど活性化に奔走する。結婚後は札幌でDIYな北国暮らしをかじったところで富山へ移住、3年目。職人技に圧倒されるのも自分で手を動かすのも両方好きで、現在は今後の住まいとする県西部の田んぼの中の民家をリノベ中。今一番興味があるのは人類学。http://chieyabutani.com/